気になったこと日記 on はてな

突然ですがこちらに移転しました。

独白するユニバーサル横メルカトル

独白するユニバーサル横メルカトル独白するユニバーサル横メルカトル』(平山夢明短篇集)。2007年、最初に読んだのがこの本だというのは悪夢。

いや、本書の「悪夢のような迫力」とかそういうものではなく、単純につまらなかったというだけ。

帯には三人の紹介文がある。気に入らなかった順に書けばまず柳下毅一郎。「神です、神」。「安い神やなあ」と、お約束のツッコミを入れたくなる。一瞬「ニーチェに殺されてしまった『神』と比較することによって、何かを表現しようとしてるのか」とも疑うけれど、単なる帯の宣伝文句。単純に褒め称えてると取るべきでしょう。

綾辻行人は「恐怖か快楽か。残虐か諧謔か。嘔吐か感涙か」。恐怖も快楽も、本書から得られるものは底が浅すぎる。底の浅い残虐は諧謔に成り得ていない。心動かされぬ中で、読後の感情が嘔吐や感涙なんていう身体的レベルに影響することもない。

また氏は著者を評価して「地獄の超絶技巧師」とも言う。本書で一番気に入らなかったのが「文章自体」であり、その「文章自体」は初期・大江健三郎のように「悪文の中の迫力」を生むものでもなかった。「超絶」という言葉には、これまでに数多扱われた「パガニーニ」に関する文書へのイメージが内包されてしまうけれど、その面からも「安いパガニーニ」と感じる。

三人の中で最も落ち着いているのは京極夏彦。「癖になります」。これはシンプル。客観的評価を押しつけることを嫌った良心的なコメントだろうか。

帯の裏。こちらは引用する。

警告
本書は読書時、脳内麻薬様物質エンケファリン、β-エンドルフィンが大量放出される可能性があり、その結果、予想外の多幸感、万能感に支配されることがあります。衒学的な推計によると是に拠る平山本に対する依存性は読了者には非読了者に比べ約2倍から4倍高くなります。
いかにも「神です、神」の言葉や「地獄の超絶技巧」に引きずられた「多幸感」が透けて見えるコメント。あるいは本書を読んでたやすく「多幸感・万能感」を感じる現代気質を提示して、立花隆の環境ホルモン談義に何か意見しているのだと深読みする方が笑って読み流せるかもしれない。

表紙のデザインはひと目不快。いかにもチープ。下品さが産み出す「迫力」というのも確かにあり得る話だけど、この図柄はあくまでチープ。但し本書を読了した後なら「内容にぴったりの表紙」ということはできるけれど。

内容についてはあまり言うことがない。文体は安い衒学趣味に尽きる。どこか『大人のための怪奇掌篇』(倉橋由美子)の雰囲気を感じることもある。倉橋由美子についても三部作以降の作品群を評価する気になれない。でも倉橋由美子の「衒学趣味」的部分には、多くの場合「本物の迫力」が、少なくとも透けて見えてはいたよな。

表題作については「清水義範かよ」とも思う軽薄さ。しかるに「軽薄さの裏を透かして恐怖の深淵を」なんていう作りにもなておらず、ただただ「清水義範かよ」と呟きたくなる作品。

日本推理作家協会賞受賞作」ということで一応手に取りたくはなる。しかし読了した後にいささかも楽しみを感じることのできない作品集だった。