『辞書になった男』を買ってきて、夜中を通して一気に読んでしまった。
残念ながらテレビ番組は見てない。扱われるのは「宿敵」の印象がある二人。しかし二人ともに「アンタッチャブル...『辞書になった男 ケンボー先生と山田先生』佐々木 健一 ☆4 http://t.co/bZ2tUdh9di #booklog
— maeda hiroaki (@torisan3500) 2014, 2月 10
実は購入を悩んでいた。まず、もともとテレビ番組企画であったということ。基本的にテレビが好きじゃないので、ここでまずワンクッション。
さらに、扱われる「ケンボー先生」と「山田先生」がビッグネームすぎること。二人の間に軋轢があったという話はよく言われる。しかしあまりに影響力のある二人のことなので、そんな二人の「軋轢」を扱うなら、キレイ事で流してしまうのではなかろうかとも想像した。
あるいは逆になるけれど、センセーショナルに軋轢を扱うのであれば、それはそれで不快感ばかり残る本にもなりそうだ。
そんな思いでしばらくは悩んだ。読み始めてみれば杞憂だった。
当事者間の軋轢をことこまかく拾うのでなく、あるいは完全なる傍観者として争いを面白く眺めるのでもない。当事者の、辞書に対する思いから、自然と二人の間にあったと言われる軋轢を浮かび上がらせるというスタイル。
編集が大変そうだけれど、もちろんこうしたスタイルがもっとも面白い(と思う)。
さらに、こうしたスタイルで本を綴れば「二人の争い」などに全く興味がない人も、素直に「言葉」への興味で楽しく読むことができる。
ところで「ケンボー先生」の生み出した『三省堂国語辞典』は、ときに「当たり前のことしか書いていない」とか、あるいは収録後数が少ないなどと言われるとのこと。確かにざっとみれば「必要最小限」に感じるところもある。
ただ、個人的にはいろいろな辞書と読み比べるうちにだんだんと好きの度合いが深くなるといったタイプの辞書と感じている。『三省堂国語辞典』に携わる飯間浩明の『辞書を編む』も面白い。
「山田先生」の方の『新明解』は、少々奇をてらうところがあったりはするけれど、本格的な楽しみを感じさせてくれる部分も多い。『新海さんの謎』という本が有名だけれど、実は『新明解』を楽しむには『新海さんの謎』は読まない方が良いかもとも感じている。
あるいは、昨今の辞書ブームの中で出てきた泡沫本(?)のひとつかもしれないという思いもあった。そんな軽さは全くない本格派。幅広い層の人が「かなり」楽しめる本だと思う。
著者は、本書は『明解物語』があってこそのものだと記している。
おかげさまで楽しい夜を過ごすことができた。