犯罪学、行刑学はとても進化したようだ 〜 『入門 犯罪心理学』
80年代に犯罪学を勉強していた。当時から犯罪学は大いに進化したらしい。それを教えてくれたのは『入門 犯罪心理学』だ。
まずカバーの折り返しのところに次のような記述がある。
近年、犯罪心理学は目覚ましい発展を遂げた。無批判に信奉されてきた精神分析をはじめ実証性を欠いた方法が淘汰され、過去の犯罪心理学と決別した。
80年代(その前の時代は知らないが)は、一種の心理学ブームのような傾向もあって、心理学をかじった人間は、なんでも好きなことを言って良いという感じすらあった。「ピーターパン」だの「モラトリアム」だのと言っていれば、立派な社会分析をしているものとみなされたりした。
心理学全般がそのような様子であるなか、犯罪心理学もやはり「なんでもあり」状態で、その流れからつまらない「プロファイラー」が生まれてきたりもした。
筆者はそんな時代を切って捨てる。
かつて、精神分析理論や社会学的犯罪理論が犯罪心理学の主流であったころ、犯罪心理学は、犯罪の抑制になんの効果もないと言われていたし、実際そのとおりであった。
現代の「データ」収集力は80年代には想像もできなかったレベルにあり、それが行動心理学や認知心理学にも当然影響を及ぼしたんだろう。
(再犯率低下に役立った治療とは)行動療法や認知行動療法などの行動科学に基づいた治療で、精神分析、パーソンセンタード・セラピーなどは、ほとんど効果がなかった。
犯罪心理学の進化は犯罪学はもちろん行刑学にも活かされているはずで(本書でも行刑についても触れている)、犯罪者処遇は完全に新しい段階に進化する(している?)のかもしれない。
自ら再度犯罪学を勉強する機会はないかもしれないけれど、確かな進化の存在を感じさせてくれる本だ。
ところで、と余計なことも考えた。
学問としての犯罪学と、現実の対応策としての行刑にはさまれて、犯罪処理の現場(警察や検察、あるいは裁判所も)だけが立ち遅れるということもあるに違いない。そこで生じる緊張状態がどんな具合におさめられていくのか。これは社会問題とすると「悲劇的」ですらあるけれど、学問分野としてはますます面白そうだな。
ところで心理学。『知の逆転』の中でミンスキーが「カール・ユングは科学分野からとうの昔に消え去っているでしょう」と言っていたのを見て大いに驚いたものだった。
- 作者: ジャレド・ダイアモンド,ノーム・チョムスキー,オリバー・サックス,マービン・ミンスキー,トム・レイトン,ジェームズ・ワトソン,吉成真由美
- 出版社/メーカー: NHK出版
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確かにユングは80年代から「魔王である」(ネガティブな意味)というような評価はあった。しかしそこまで簡潔に、圧倒的に切り捨てる意見はあまり表に出て来なかったように思う。
しかし既にユングのみならずフロイト、そして現場でも数多くの実践例を持つロールシャッハテストなども箪笥にしまい込まれる時代になっているらしいのだった。
ロールシャッハテストは性格診断には役に立たないということが、1970年代以降多くの研究で実証されており、それを支持するデータが次々と蓄積されているからだ via 『入門犯罪心理学』(原田隆之)
— maeda hiroaki (@torisan3500) 2015, 3月 31
完結、かつ迫力をもって学問分野の進化を伝えてくれた本。とてもおもしろかった。